ピアスの歴史:古代エジプト
最終更新: 2026-07-03

古代エジプトは、古代世界のなかでも指折りのジュエリー文化を誇ります。ゴールドの首飾り、ラピスラズリの胸飾り、ターコイズやカーネリアンの護符など、名品の数々はいま見ても圧巻です。
一方で、ピアスという身体装飾に目を向けると、意外なほど傾向ははっきりしています。古代エジプトでピアスが開けられていたのは、ほぼ耳たぶだけでした。
本記事では、この耳たぶのピアス文化を、時代の流れに沿って手短にたどります。エジプトの物質文化は奥深く、ここで語り尽くせるものではありませんが、まずは入口としてお楽しみください。
耳たぶだけだったという事実
出土品やミイラの調査、彫像表現などを総合すると、結論はかなり明確です。古代エジプトでピアスとして確認できるのは、耳たぶにほぼ限られます。
先王朝時代から新王国時代、さらに後の時代まで、人骨や彫像の研究を追っても、鼻や唇など別の部位にピアスを開けていたことを裏づける確かな証拠は見つかっていません。
一方で、イヤリングは女性の描写が多いものの、男性や子どもが耳にピアスをしていた例も確認されています。さらに新王国時代の後期には、女神バステトが耳にピアスをした姿で描かれており、耳のピアスが宗教表現に取り込まれるほど一般化していたことがうかがえます。
先王朝時代から新王国時代へ
耳たぶのピアスは、先王朝時代(紀元前3100年以前)の小像などにもすでに登場します。ただし、イヤリングの形や作りは、時代とともに大きく変化していきました。
第二中間期、そしてとくに新王国時代(紀元前1550〜1070年頃)になると、形はより複雑になり、素材や技法も一段と凝ったものへ。第18王朝の頃には、王家の工房で、叩き出したゴールドに色ガラスをはめ込むクロワゾネ(細い金属の仕切りで区画を作り、そこに色材を埋める技法)やガラス素材を組み合わせたイヤリングが作られていました。

完成度の高さは、いま見ても驚かされるレベルです。
ツタンカーメン王のイヤリング
ツタンカーメン王の墓から見つかったイヤリングは、古代ジュエリーの中でもとくに研究が進んでいる作品のひとつです。
なかでも有名なのが、左右そろいの一対です。アヒルのような頭をした鳥が翼を広げ、輪を描くデザインで、足元には永遠を意味するシェン記号があしらわれています。

頭部はラピスラズリを思わせる青い半透明ガラス。翼は色ガラスとファイアンスのはめ込みで作られています(ファイアンスは、焼き物の表面に釉薬をかけ、ガラスのような光沢を出した素材です)。
さらに、留め具にも見どころがあります。顕微鏡で調べると、耳たぶのピアスホールに通し、後ろ側で固定できる二部構成だったことが分かっています。擦れた痕跡が残っていることから、生前に実際に着用していた可能性が高いとされています。
第19王朝のセティ2世のイヤリングもカイロのエジプト博物館に残っており、ゴールド製のヤグルマギクのチャームを付けたデザインが特徴です。王家の中で、伝統が受け継がれながら少しずつ変化していったことがうかがえます。

イヤースタッドなのか、別の装身具なのか
第18王朝の新王国時代には、装飾された軸を持つキノコ形のガラス製品が見つかっています。これらは一般にイヤースタッドと呼ばれ、装飾面を前にして耳たぶに通していたのではないか、と考えられてきました。

ただし、シカゴ美術館の研究者は、こうした品がペアよりも単体で出土する例が多いことを指摘しています。さらに、隠れて見えないはずの軸部分にまで装飾があるのは不自然では、という疑問も残ります。
同時期のガラス製イヤープラグを紹介するゲティ美術館の出版物でも、似た問題提起がされています。耳たぶに通すプラグだったのか、それともワイヤーに吊るして装飾全体が見えるように着けたのか。
結論はまだ出ていません。こうした議論が続いていること自体が、古代の装身具の奥深さを物語っています。
素材に込められた意味
古代エジプトのジュエリーに使われた素材は、ゴールドやシルバーにとどまりません。ファイアンス、カーネリアン、ラピスラズリ、ターコイズ、アメシスト、ガーネット、さらには宝石を模すために作られた色ガラスなど、多彩です。
重要なのは、素材がきれいだから選ばれたわけではない、という点です。たとえばゴールドは神聖な金属で、神学的には「神々の肉」と呼ばれ、とくに太陽神ラーと結びつけられていました。青緑の輝きを持つファイアンスは、豊穣や再生のイメージと関連づけられています。
古代の人々にとって素材は、見た目と同じくらい、意味を持つ要素でもありました。
MAYのこだわり
古代エジプトの職人たちが示してくれるのは、素材選びは単なる好みではない、ということです。見た目の美しさだけではなく、その素材がまとっているイメージや意味まで含めて、身につける人の印象をつくっていきます。
ガラスは、その分かりやすい例です。古代エジプトでは、ガラスは安い代用品として扱われたわけではありません。狙った色を出すために手間をかけて作られ、ゴールドや半貴石と並んで王家のジュエリーにも用いられた、価値ある素材でした。
そしてこの考え方は、現代のボディジュエリーにも通じます。高品質なガラスは表面がなめらかで、汚れが入り込みにくいのが特長です。素材としても安定しており、ピアス用途でも選ばれています。
MAYでは、ガラスに加えてインプラントグレードのチタン(ASTM F136)やスチール(ASTM F138)も取り扱っています。身につける前に、これは何でできているのか、体に近い場所に使って問題ないか。そんな視点で素材を選ぶ姿勢は、古代から今へと続く、とても自然な感覚なのかもしれません。
「ピアスの歴史」シリーズの次回は日本へ。まずは近代からはじめ、これまでとは異なる独自の流れを、時代をさかのぼりながら追っていきます。


